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コラム

黒須田 守
黒須田 守

勝負師(ジョッキー)の肖像

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2009年03月31日

最後に――後藤浩輝

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 約1年半にわたる本稿も、これが最終回となる。最後はやはり、これまでもっとも言葉を多く交わし、多くの時を過ごした騎手である、後藤浩輝について記したい。

 後藤に初めて会ったのは、もう10年以上も前のことになる。1996年に長期アメリカ武者修行を経験した彼が、日本に戻って来ていくらも経っていない頃だ。そのときは編集者として取材に同行するという立場だったから、ひたすら取材者と後藤の会話に聞き入るという出会いだったのだが、とにかく後藤の意識の高さに驚かされ、感心させられ、心揺らされたものだった。帰り際、その取材者と「後藤が天下を獲れない競馬界だとするなら、未来はない」などと語り合ったことをよく覚えている。

 自分が取材者として初めて会話を交わしてからも、10年近くの月日が経っている。依頼した取材のテーマは、かの木刀殴打事件についてだった。正直、取材に応えてもらえるとは思っていない、ダメモトの依頼だったし、それが原因でこちらが信頼を欠いても仕方ないとも思っていた。実際、彼はその件についてはNGを出してきたし、後藤とはこの先も無縁のまま終わるのだろうと思った。それを覚悟しての接触だったのだから、諦めるよりほかなかった。だが、最後にさらにダメモトで、別のテーマを投げかけての最オファーを出してみると、案に反して、後藤はすんなりと快諾したのだった。その即答ぶりに、依頼したこちらが驚いたものだ。

 取材自体も、実にスムーズだった。不穏な依頼をしてきた人間に懐疑の目を向けることもなく、こちらの言葉に真っ向から思いをぶつけてきた。それは時に重たい空気を作ったりもしたけれども、その後の彼との付き合いを思えば、そうした沈黙などはむしろ、彼自身が正直な思いを衒い(てらい)なく絞り出そうとするときなのだった。その真摯な表現、また姿勢にさらに感動させられたものである。

 後藤は、常に思索し、それを表現しようとする男である。

 話題を呼び、時に物議も醸した勝利騎手インタビューでのパフォーマンスも、後藤の何らかの思いが込められ、それを表現しようとしたものであった。そうしたおちゃらけたような部分以外でももちろん、後藤はそのようにふるまっていた。

 そうした後藤を理解していくにつれ、僕はインタビューをする際、ますます厳しい言葉を投げかけるようにもなっていた。たとえば、勝ったレースよりも負けたレースについて話題にするようになった。スポーツ紙が大見出しで取り上げるような失敗についても、真正面から斬り込んだりもした。

 後藤は、ともすれば避けて通ってもおかしくない話題についても、真正面から対峙してきた。決して逃げるような言葉で、質問をあしらったりしなかった。自分のミスをごまかそうとはしなかった。すなわち、正々堂々、立ち向かってきたのである。後藤にしてみれば、それもまた、ひとつの表現だったのだろう。

 言葉を交わすたび、時間を共有するたび、改めて感じてきた。やはり、後藤浩輝のような男が、騎手とは何かを伝えていくため、頂点に君臨するべきではないだろうか、と。頂点とは技量に関して、あるいは数字的な部分に関してではない。大げさにいえば、騎手の象徴的な存在に、彼にはなってほしいと思った。

 僕自身が主戦場を競艇に移すようになって、後藤と言葉を交わす機会はめっきり減った(後藤だけではなく、騎手全体に関しても同様だ。本稿で取り上げる話がやや古めだったことはお詫び申し上げます)。後藤を取り巻く状況は、決して安易なものではなく、07年に関東リーディングは獲っているものの、決して満足などしていないだろうが、そうした確認すら、しばらくしていないのが現実である。

 先日、本当に久しぶりに、ほんの数分だけだったけれども、後藤と顔を合わす機会があった。再会を喜び合っただけで、たいした話はまるでできなかった。だが、それでも僕の感覚は変わっていない。この男がもっと存在感を増していって、その表現が競馬ファンにもっともっと届くようになれば、競馬はもっともっともっと面白くなる。

 最後に。これまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました。騎手の魂を知ることは、馬券が格段に当たるようになる特効薬にはなりえないけれども、競馬の面白みをより深めてくれる財産になると信じます。


(編集部より)本連載は今回で終了となります。ご愛読ありがとうございました。

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